無限ワンアップ・改

さゆゆだよお

スーパーマーケットファンタジー、そして酒クズと図書館

富山に帰ってきてから2か月、3件不採用を経たのちようやくバイトが決まり、めでたくスーパーのレジを始めた。車を使わずに家から行ける距離で、私が幼い頃から何度も何度も母と買い物をしたことのある小さなスーパーだ。よっぽど人が足りていないらしく、履歴書をもって行くと即採用になった。
スーパーのレジは高校生の頃に経験があった。茨城県での夏フェスに行くために、学校(バイト禁止)に内緒で夏休みの短期アルバイトとして朝から夕方まで毎日レジ打ちで旅費とチケット代とグッズ費を稼いでいたのだ。今の職場は当時通っていた店の系列店なのでいろいろと気楽だった。あれから約10年のブランクを挟んでいるし、当時は今ほど普及していなかったエコバッグやレジ袋有料制など面倒なことはあるが、レジ打ち自体は徐々に調子を取り戻しつつある。何より「レジやったことあるがね? なら大丈夫やちゃ」「あんたの研修今までのバイトの子でいちばん短時間でラクだったわ〜」とスキルを認めてもらえて、ほとんどすぐに戦力として使ってもらえているのがありがたい。(ちなみに昨日「あんたこれからどっか就職すんが? ずっとここで働く気っちゃない?」と言われた。どんだけ人足りとらんのや)
我ながらとても良い質の接客だと思う。はっきり喋れる人間でよかった、あとかわいい声に生まれてよかった。所作を丁寧に丁寧にこなすと、おつりを渡す際なんかに客側も「ありがとう」「お世話さまです」と言ってくれたりする。多少ミスしたとしても笑顔で許してくれる。
ただ、そんなふうに私の神接客を以てしても何かが気に入らないらしく文句をつけてくるババアはいる。ババアのみならずジジイもいる。しかし彼らはそういう生き物なので仕方がないと割り切るしかない。

レジにいると、カゴの中身を通してその人の生活がなんとなく見える。
ホットケーキミックスと蜂蜜とホイップクリームを買う母娘。揖保乃糸とめんつゆを買うおばさん。鬼ころしのパックや焼酎のボトルとサラミを大量に買っていくおじさん。高い味付き肉とエバラ焼肉のタレとサニーレタスを買っていく家族連れ。ゴミ袋やラップやスポンジなどの日用品をまとめて買っていくお兄さん。小銭を握りしめて半額のアイスを1個だけ買っていく子ども。
人を見た目で判断してはいけないが、カゴの中身とギャップがあるときは少し「おっ?」と思う。

図書館でや塾で働いていた時と比べて、やりがいは1ミリも感じない。たまに同級生や同級生の家族がきたり、客と世間話をしたり、小さな子どもと接したりするという楽しみがないこともないが、基本的にはゆっくり流れる時間との戦いだ。同じ動作の繰り返し。出勤して、レジに立った瞬間からもう帰りたい気持ちになる。壁の時計を何度も見てしまう。それでも、この田舎で車の免許を持たない私が家から通勤できる圏内の数少ない商業施設に雇ってもらえただけでも御の字なのだ。ついでに、ありがたいことに三角巾のようなものを被って勤務するため頭のハゲも隠れる。ありがたい。文句を言っている場合ではない。それに、別にやりがいや生きがいを求めてスーパーのレジ打ちをやりにきているわけではない。金、欲しいのは金だ。家でぼんやりしている無為な時間を現金に変え、人と関わって生きて、さっさと目標額まで貯めて一刻も早く東京にいる恋人と暮らすと決めたのだ。働くしかない。働くしか。

 

バイト先を出てすぐそこに、図書館がある。役所仕事の施設も併設されていて、かつては児童館もあった建物だ。ナントカ総合センター、みたいな感じ。幼稚園や小学校とも近い。そこまで広くはないが、間違いなく人生で最も訪れた図書館だった。どこにどんな本があるか、つぶさに知っている。児童図書も一般図書も、幼い頃からこの町を出ていくまでに読んだ本がたくさんある。ここで宿題もしたし、受験勉強もしたし、小説も書いた。不登校の時にも通った。

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↑美しいよね。どの本も、それぞれのやり方で自分を主張してる。
この図書館のロビーには公衆電話や自販機や長椅子があって、学校帰りの小学生たちの溜まり場になっている。小学生の占拠していない部分の長椅子に腰掛けて、夜寝る前に飲むつもりで買った缶チューハイを取り出し、開栓する。

 

ヤベーーーーーーーー

 

背徳感とアルコールでフワフワする。おいしい。そしてとても強く強く、罪の意識。昼間から外で酒を飲んでいる。とても健全な場所で、こんなことをしてしまった。小学生たちはこんなところで座りこんでいる私をどう見ているんだろうか。下校時間帯に飲んでるダメな大人だろうか。それとも、すぐそこに自販機があるから酒の缶をジュースやお茶だと思っているだろうか。
「今日バイト頑張ったんだし別にいいじゃん、あと歩いて帰るだけなんだし」心の中の悪魔が言う。
「こんなところでこんなことしてるの明らかに普通じゃないよ、やめなよ」心の中の天使が言う。
しかしもう開栓してしまった以上飲むしかない。飲む。自分クズだなあ〜と思っていた自責の念が、罪悪感が、ナントカ総合センターのロビーから吹き抜けへ向かってすぐに溶けていく。おいしい。おいしい。
飲み干してゴミ箱に缶を捨てて、ほろ酔い状態で図書館に入る。意識はしっかりしているが、視界に入る本棚の本すべてが面白く見える。心理学、名付け辞典、宗教、農林水産業の抱える問題、名前も知らない偉人の一生、いきものずかん、弁護士になるには、としょかんのつかいかた、1人ぶんの朝ごはん、トムソーヤの冒険、横光利一の全集、上手くなるサッカー、尾木ママの本、子どものためのドラッグ大全、村上春樹、もうどれもこれも面白そうで、館内をフラフラと歩けばあれもこれも読みたくなって、手に取っては目次だけ眺めて棚に戻す。特に児童図書が楽しい。あー、酔ってる。最高。楽しい。やっぱり私は図書館が好き。大好き。大好きだ。文字の海、情報の海に溺れていたい。たくさんの資料たちが、誰かに伸ばされる手を待っている図書館。触れていたい。
また図書館で働きたい。これが私の願望だ!
そして、思い立ったらすぐに行動をおこしてしまうのが私の長所であり短所である。
カウンターにフラフラ近寄り、パソコンでお仕事をされていた小太りのお兄さんに尋ねる。
「すみません」この時点で私は酒臭かったのかと思うとあらためてクズだなあと思う。
「はい」
「あの、トヤマ市立図書館って本館の他に分館がたくさんあるじゃないですか」
「ええ」
「その、それらで働いとられる方たちって皆さんすべて司書の資格を持っとられるんですかね」私は司書の資格を持っていない。
「あー……一部、ですね」
「一部?」
「いわゆる普通の、パートの方とかも少なくないんですよね」
「はあ、そうなんですね」
「はい……」
「……」
「……」
「今って」
「はい」
「こことかって、求人とかってしてないんですか」
「あー……」
「……」
「ここの分館からは出してないんですけど、本館がまとめて出してますね」
「ああ」
「求人に関することも、本館に問い合わせてみればいいと思います。それこそ電話とかしてみるといいかもしれないですね」
「なるほど、そうですよね。すみません、ありがとうございました」
司書資格がなくても働いている人はいる!ヤッターーー!!!せっかく安定してきたスーパーのレジを放り投げて、私でもパートとしてどこかの図書館に採ってもらえないだろうかなどと酔った頭で考える。バカだから。しかしそもそもトヤマにはいつまでも滞在しているつもりはないのだった。前述のとおりさっさと金を貯めて東京で恋人と暮らすのだ。司書の資格は、まあ子どもを産んで空き時間に勉強を始めるとかでもいいだろう。東京に行けば電車やバスという通勤手段があるし、働く場所なんていくらでもある。結局今はスーパーで金を稼ぐしかないし、図書館は利用者として楽しむのが最適解だろう。

 

目下のところ、レジの仕事に慣れてお金を稼ぐしかない。経験もあるせいか、わりと好調だ。明日から夕方〜閉店まで固定のシフトだ。閉め作業では、レジ以外にも鮮魚部門のこともしたりする。早く慣れたい。
ちなみに前述のお兄さんは昨日13時台に私のレジへお昼ごはんを買いに来た。たぶん私のことは覚えてなかったと思うけど、少しテンションが上がった。