無限ワンアップ・改

さゆゆだよお

1.Break

身近な人の、嫌なところばかりが目につくようになったのはいつからだったか。友達の幸せに、心からのいいねを押すことができない。めったに。あの子が人生を賭けて手に入れた幸せのまぶしさに、わたしが人生を賭けて手に入れた孤独は影を濃くする。だれといてもひとりみたいな気分になる。分断が起こり、壁が隆起する。いや、壁なんて本当はないんだと思う。その証拠にこれまでとなんら変わりなく「また飲もうよ」って彼らは手をさしのべてくる。こんなふうにして、わたしのめんどくさい自意識が浮き彫りになる。恥ずかしい。

心の安寧がほしくて、何かと理由をつけては人を下に見るようになった。思いつく順番にひとりずつ。あいつはああいう出来事をやらかしたからクズだとか、あの子はああいう性格だから最低だとか、あの大人は酒の席であんなだったから信じるに値しないとか。クズで、最低で、信じるに値しないのは、こんなことを考えているわたしで、そんなんはわかっている。それでも身近な人をひとりずつ、嫌なところを挙げて、それを積み重ねたタワーの上で安心して眠る。よかった、ほらね、みんなわたしと同等かそれ以下。だからわたしはきっと人並みに大丈夫なのだ。でも、ときどき、どうやっても下に見ることができない立派な人が思い当たるとパニックになる。ああ、おまえみたいな、おまえみたいなやつがいちばん気に入らないんだよ。おまえみたいなやつをわたしは一番、軽蔑して安心したいのに。なんだかとってもささくれた気持ちで乱暴にガシャガシャと歯磨きをしたら歯磨き粉の泡に血が混じっていた。さっさと布団に入って、明日もくそほど叱られるバイトに行かなければならない。あのクソハゲデブ店主はわたしの名前をいっこうにおぼえない。死ねばいい。とっさにわたしの名前が出てこなくて「あーちょっとそこの、あー、女の子!」は笑えた。あいつは死ねばいいんだ。酒飲みながら脱税してるとか言ってたの全部、然るべき場にチクってやろうか。バイト先の他の子たちはむしろ贔屓されているように思える。彼女らのことはナナちゃん、ユキちゃん、ってちゃんと名前で呼んでるのに、きっとあのハゲデブの辞書にはわたしだけいつまでも名前の登録がない、苗字すらない。でもその理由はわかる。わたしは彼女らが当たり前にできていることがなぜかうまくできない。堂々としているとか、失敗を明るく笑ってごまかすとか、フランクさとか。気づくのに大変な時間がかかってしまったが、どうやらわたしが持っている真面目さは普遍的な真面目さとはタイプが違うものらしい。いいよ、願い下げだよ、あんなヘラヘラしとるバカ女どもといっしょにせんといてくれや。こうしてまた浮き彫りになるめんどくさい自意識。どうしてうまくいかないんだろう、どうして自分ばっかりこんななんだろう。みんなわたしと同じになればいい。簡単なことすらできなくればいい。みんな死ねばいい。わたしも死ねばいい。おまえらを殺しておれも死んでやる。最低だ。わたしのこと軽蔑して安心してくれ。ここにいたくないのにどこにも行きたくない。生まれ直せたら彼女たち側になれるだろうか。寝て起きてまた強制的に明日が始まる。はやく来世のカタログがほしい。

 

「誰かや何かを軽蔑してると安心するのはわたしだけなのかもしれない」

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