無限ワンアップ・改

さゆゆのメモ箱

5.コンタクト

夜通し頭の中が沸騰して、外が明るくなっても眠れない。おそらく彼は夜勤明けだろうなという頃に連絡を入れた。「暇な日ありますか。会いたいんですけど」

好きになったら衝動的にこういうことをしてしまうからわたしは、これまでにいくつかの片思いを死なせてきた。あ、好きかも!と思ったらガーッといってしまう。自分の辞書に「駆け引き」の文字がない。

その日の夜、下北沢駅の改札を出たところ、駅前劇場の前で会って、居酒屋に入って、たわいもない話をした。この人は勘がいいから、おそらくわたしの好意には気づいている。気づいていてこんな、くそ茶番のような時間にも付き合ってくれている。「これまで付き合ったのは8人"くらい"」って平気で言う、うんざりする、きっと異性の扱いにも慣れている。それがつらくて、嬉しかった。

もしもこの人と彼氏彼女になったら、あわよくば一緒に暮らせたら、どんなだろうなあ。

きっと素敵だ。

居酒屋といえば鳥貴族にしか行けないような経済状況の彼が割り勘のおつりを持たせてくれた。そのことが、またわたしを舞い上がらせた。完全にバカな女だった。恋をしているときっていうのは酩酊状態と同じなので仕方ない。「これでファミチキでも買いなさい」そう言って握らせてくれた小銭で、ファミチキではなく、のど飴の袋を買って帰った。ファミチキは食べたらすぐになくなってしまうから。彼の200円で買ったのど飴で、数日間、わたしは喉の調子が良くなって、歌がうまくなると信じてやまなかった。

歌はうまくならなかったし、彼はわたしのものにはならなかった。わたしは彼の何にもなれなかった。本当に、何にもなれなかった。何も見えてなかった。

 


わたしはバカな女で、恥ずかしくて可愛い片思いをした。結果的にあなたのこと、"片山さゆ里"の世界観の肥やしにしてしまってごめんなさい。体に気をつけて、すこやかに暮らしてください。

 

なんかそういう、一瞬だけ触れた 歌です。

 

 

「澱んだやさしさも 受け止めて」

5.コンタクト   2'29" Play:E