無限ワンアップ・改

さゆゆのメモ箱

0904 田中先生と人間失格のこと

ふと思い出した出来事があり、それを死ぬまで忘れたくないなと思ったので、ここに書き残しておきます。私が高校生の頃なので、10年以上昔の話です

 

 

高校のとき、現代文/古典の両方の授業をしてくださってた、田中先生という女性の先生がいた。いわば国語の先生。正確な年齢はわからないが、当時40代後半くらいだったろうか。田中先生は、高貴なおばちゃんって感じの先生。汚い言葉づかいは絶対にしない。

私の行ってた高校は、県内では中の上くらいの進学校だった。まじめな子が多い。定期試験では40点未満が【赤点】とされていた。赤点をとった生徒は特別に宿題を課された。私は、現代文はバリバリ得意だったけど古典がからっきしダメ。古文も漢文も全然わからなくて、赤点をとりまくり、田中先生に何度も呼び出されていた。そのこともあり、他の先生と比べて田中先生とは話しやすかった。

そこの高校では、年に1回、読書感想文を書かされた。国語の授業の一環だったのか何なのか覚えてないけど、とにかくみんな同じ本を買わされて、それを読んで感想文を提出しなければならない。それで、ある年の課題図書が、太宰治の「人間失格」だった。新潮文庫の、あの薄いやつだ。私はその頃、持病の貧血で集中力が著しく低下していて、読書が全然できない。意欲もない。というか、面白い本に見えない。こんなん読むの面倒や。というわけで、人間失格は読まず、感想文も提出しなかった。

そうすると、田中先生に呼び出される。

田中先生は職員室ではなく図書室に居を構えていた。図書室のカウンターの中に、分煙室みたいなガラス張りの部屋があって、田中先生はそこにいつもいた。(今思えば、教員免許と図書館司書の資格を併せ持つ『司書教諭』だったからだろう)

 

先生「片山さんあなた感想文出してないでしょう」

わし「えー だって面白くなさそうだし」

先生「じゃあ感想文はそんなに長く書かなくていいから。とりあえず読んできなさい」

 

そういうわけで、仕方なく、人間失格を読んだ。

 

読んでみたら、1ミリもおもしろくなかった。

本当に退屈な話だった。時間を返せと思った。暗くて、陰鬱で、わくわくする物語でもなくて、ただジメジメした雰囲気が最初から最後まで続く、本当にクソつまらんイライラする本だと思った。

私は半分キレながら、読書感想文を書いた。

「暗くて、ジメジメしていて、展開もよくわからなくて、本当に嫌な本でした。腹が立ちました。時間の無駄でした。」的なことを書いた。400字詰め原稿用紙の半分にも満たない文量で、ほぼ田中先生への苦情みたいな感じの文章だった。

書いたら田中先生のところへ提出しに行った。「遅れてすいません。一応読みました。けど、全然おもしろくなかったです。あんな本をウチらに読ませる意図がわからん」と言って、先生に渡した。

先生は、私の短すぎる感想文をその場で読んで、嬉しそうに笑みを浮かべながらこう言った。

 

「この学校にも、片山さんみたいな感想書く子がいて安心したわ」

 

理由はわからないけどそのとき、涙がこみあげてきた。

 

私は高校を卒業してから、本をたくさん読むようになった。小説だけじゃない、いろんな本を読むように。太宰治の本も読んだ。田中先生は今どうされているのか全然わからないけど、ふと思い出したこの出来事が、私の今を支える大きな糧になっているのかもしれない。