無限ワンアップ・改

さゆゆのメモ箱

村田先生

小学校の1、2、3年生のとき、担任は村田先生という先生だった。(当時は)若い、女の先生。年齢は、最後まで教えてくれなかった。干支ならどうかと思って「先生、何どし?」と聞いたけどもちろんダメだった。とても明るくて朗らかな先生だった。生徒のことは苗字にさんづけで呼んでいた。でも私の苗字はクラスに2人いたので、私と、私と同じ苗字を持つ男子は苗字でなく「サユリさん」「ハルキさん」と名前で呼ばれていた。

その頃の私は人前で話すことがとにかく苦手で、緊張するとすぐに涙ぐんでしまう癖があった。日直の生徒が絶対にしなければならない朝のスピーチや、授業中の発表など、いつもいつも苦痛だった。人前でも友達と話すように喋れるお調子者のクラスの男子が心から羨ましかった。ちなみにこの癖はなかなか直らず、結局中学生になっても目上の人と話すときは涙目になっていた気がする。職員室ではいつも緊張していた。

小学校3年生のとき、国語の授業で「おてがみ」という単元があった。元々は絵本になっている物語で、親友同士のカエルが手紙をやりとりするという内容だったと思う。その中で、片方のカエルが友達の「かたつむりくん」に手紙を託す。そこに関して、「直接ポストに入れればいいのに、なぜわざわざかたつむりくんに手紙を託したのか?」を授業で考える回があった。みんなが口々に意見をいう中、村田先生に「サユリさんはどう?」と当てられた私は、立ち上がり、恐々と、「かたつむりくんに手紙を託したのは、(かたつむりくんは歩くのが遅いから)お手紙が届くまでの秘密の時間が長いからじゃないかなあ」と震えながら自分の考えを答えた。クラス中から「えー」「そうかなー」などの声があがり、私はすぐに涙目になった。何も言わなきゃ良かったと思った。そこでチャイムが鳴って授業は終わった。それは4限のことだったので、次は給食の時間だ。

給食の準備をしている間、村田先生は連絡帳に何か連絡ごとのあった生徒を呼び出して個人的に話をしていた。その中で、私も先生に呼び出された。何かあったのかなと思いながら先生のところへ行くと、先生は「前の国語のとき、どうして泣いていたの?」と言った。私はそれを問われたことでまた緊張して涙目になってしまった。心の中の触っちゃいけないところに踏み込まれたと思った。ごめんなさいとも思った。何も答えずに黙り込んでいると、先生は「授業中、当てられるの嫌だった?」と言った。うまく何も答えられなかったので、とりあえず頷いた。

すると先生は「サユリさん、ちょっと来てくれる?」と、私の手をひいて、給食準備をする教室から抜け出した。どこに行くんだろう、何をされるんだろうとドキドキしながらついていくと、教室から少し離れた調理室に入った。

先生は、突然私を抱きしめて、「ごめんね、嫌な思いさせてごめんねえ」と言いながら泣き出した。びっくりしたし混乱した。大人が泣く姿を見ることなんて滅多になかったからだ。しかもそれが自分の担任の先生で、泣いているのはおそらく自分のせいだ。私はとにかく気が動転して何も言えず、泣く先生を前に自分まで涙目になっていた。

 

村田先生。覚えていますか。国語の時間に私が泣きそうになってたは先生のせいではないんだよ。泣いてた先生は何も悪くない。人前で話すのが苦手な私が悪いんだ。今は人前で歌まで歌えるようになったよ。20年弱経った今でもあの日のことが忘れられません。先生、本当にごめんなさい。