無限ワンアップ・改

さゆゆのメモ箱

スプラトゥーンよさげ

‪こないだ、スプラトゥーン、人がプレイしてるのを初めて見た。イカのキャラクターがなんかやるっていう程度の知識しかなかったけど、あれいいですね、何がいいってインクを塗り合うっていうアイデア。一見すると健全で、イイネと思いました。たとえばスマブラなんかは、(アイテムの使用もあるけど)基本的には相手を殴る蹴るなどして場外に追放したら勝ちっていうスタイルの戦いだから。肉弾戦というか、ダイレクトというか。そうじゃなくて、スプラトゥーンはインクでやり合うんだよね。肉弾戦ではないにしても、銃でバンバン撃ち合うとかよりずっと健全で、良くないですか保護者的には。知らんけど。でも実際のところスプラトゥーンも男子小学生とかあたりは「死ねっ!」て言いながらプレイしてるんだろうなと思う。どうだろ。私の家は、口にしたら問答無用で父にブン殴られるという法律が敷かれていたから、たとえどんなシチュエーションであろうとも【死ね】と【殺す】だけは兄も私も弟も絶対に言えませんでした。父がその場にいないときも、そういう系のゲームをやりながら感情がたかぶったときも当然タブー。だから兄や私や弟の友達がうちに遊びにきてスマブラやるときなんかも、友達が「死ね!」って言いながらピコピコハンマーでキャラクターを吹っ飛ばすの見ながら私たち兄弟は内心ビクビクしてた。まあその抑圧されてたやつの反動で大人になった今Twitterに死ねとか殺すとかめちゃくちゃ軽率に書いちゃうのかもしれない私は。父の敷いた法律は正しかったと今も思ってるけど、でも私も、死ねー!って叫びながらあの頃スマブラやってみたかったなあ。‬

オリジナルなカラーとは

「片山さん、どうぞ」と呼ばれるのを絶対に聞き逃してはいけない(呼ばれてるのにボヤボヤしてたらわりと軽率に診察を後回しにされる)から、ちゃんと片耳は外したイヤホンで聴く堂本剛の名曲ORIGINAL COLOR、素晴らしい間奏のギターソロに浸りながら髪の毛を抜いて足元にポイしていたら、少し距離をあけて隣に座っている男性が「この前入院しとったん、退院したん」とデカい声でひとりごとを言うのが聞こえた。こういう類の病院にいるキチガイ特有の、輪郭のはっきりしない喋り方だった。連中は何を考えているのかわからない。一般人には推しはかることがむずかしい。そして運が悪いと何をしてくるかもわからない。目が合うだけで何かが起こるかもしれない。初代ポケモンのピッピのワザ「ゆびをふる」みたいな感じ。何が起こるかわからない。だから絶対に視線をそちらに動かさないように手元の愛フォンを見つめる。
数秒経って、それはひとりごとではなく私に向けられたものだということに気がついた。そういえば私は先月の入院中に病棟の談話室でずっと髪の毛を抜いていた午後があった、看護師さんに見つかって強制終了になったけど。左手で文庫本をひらいて、右手で髪の毛を抜いては、テーブルにそれを黒々と積みあげていた。もしかしてこの人は同じ時期に同じ病棟にいて、その光景を目にしていた?それでさっき頭に右手をやる仕草を見てその時の私の姿を思い出した? 外来診療の今、入院中と服装も髪型も全然違うし化粧だってしてるのに、わかるものなのか。抜毛ってそんなに印象的な行為なのか。悲しい。やめたい。あと本当にごめんだけどおたくが私のこと知ってようとも私おたくのこと知らない。ごめん。怖い。
ほらオリジナルなカラーで、そうだオリジナルなカラーで、と堂本剛が歌う。これは「自分らしさ大切だよね」「みんなそれぞれの色があるよね」みたいな、メッセージ性の強い歌なのだと捉えている。ただ、サビの歌詞で「海の碧からくすねた優しさ 喜んでくれるかな 緑が好きだって云って買わされたシャツ」とあって、(私は沖縄の海みたいな色を想像するけど)そんなきれいな色の人間がいるなら会ってみたいと思う。キレイだな〜と思った色を手当たり次第に混ぜた私のオリジナルなカラーは、現在のところ目もあてられないような汚い色になっている。汚い。あと生臭い。色にニオイはないけど絶対生臭いと思う。でも、そんな色に対して「深みがあってイイネ!」などとわけのわからないことを言う人がたまにいて、だから生きていける。実際に、オリジナルなカラーがまるでドブなのにどうにも魅力的で仕方ない人、たくさん思いつく。
剛が終わって次に流れる曲を待っていたら、少しの無音のあと死ぬほど稚拙な演奏が始まった。ひとりで音楽をやるようになるよりも前にやっていたバンドのスタジオ練習の音源だった。ベースとボーカルを担当していた。私は普段、iPodに入っている音源すべて約2000曲をシャッフル再生しているから、いわばこれもピッピの「ゆびをふる」と同じで、何度も繰り返し聴いたようなお気に入りも出ればこういうスーパークソハズレも出る。どうせ毎回飛ばしてしまうんだから消せばいいのに、なんとなくそれはできない。死ぬほど稚拙なイントロが終わって死ぬほど稚拙な自分の歌が始まってしまう前に慌てて次の曲にいく。でんぱ組だ。これなら聴ける。ただ、精神科の待合室というシチュエーションには不似合いにもほどがある。作曲者のヒャダインもこんなところで聴かれることを想定して曲作りは(多分)しない。心を病んでいる人に対して「グリグリ ハングリーに勝ちにいけ!」という歌い出しは酷だ。
隣の男性が名前を呼ばれて診察室に入っていった。この人、私より絶対遅くに来たのに、なんで私より先なんだろう。
とりあえず、足元にポイしてた髪の毛を1本も残さず拾い集めてゴミ箱に捨ててきた。片山さんは、まだ呼ばれない……

閉鎖病棟に入院してきた

先月うまれてはじめて「閉鎖病棟」に入院してきたときのことを、いろいろ忘れないうちに書き残しておきます。結論からいうと二度と行きたくないです。

 

 

【あらすじ】


当方20代女性。もともと強迫性障害を長年患っていて、それがこじれにこじれた結果、アルコールや薬の乱用および依存につながってしまった。およそ1か月かけて状況は急激に悪化し、もうダメだと見かねた主治医と家族と本人(私)の相談により入院が決定。入るのが閉鎖病棟だということを事前に聞かされていなかったため、いざ入院する病院を訪ねた当日その事実をはじめて知り、その時ようやく、心から「帰りたい」と思ったのであった。続く

 

 

閉鎖病棟のルール】

 

・持ち込んではいけないものがあり、入院時や病棟から出入りする際に荷物をくまなくチェックされる。ペンケースの中まで確認された。具体的には
危険物(カミソリやハサミやカッターなどの刃物、爪切り、針、ライター、ガラス製品、鏡など)。
電化製品(携帯、パソコン、ゲーム機、ドライヤーなど)。

・そう、携帯パソコンは持ち込み禁止。

・持ち込むコップはプラスチック製という指定がある。

・現金は、自分で管理するのが難しい場合は病院側で管理してくれる。

・外出するには事前に主治医の許可が必要。

・病院内の売店に行くときは、病棟から出ることになるため、看護師さんが必ず1人同伴していなければならない。

 


【施設について】

 

・病棟のベッドは60床だった。

・病棟の出入り口は1か所で、扉が二重になっている。もちろんどちらも鍵がかかっていて、職員さんのIDカードでタッチしない限り開かない。

・病室の窓は15cmしか開かない。

・基本的には4人部屋。2人部屋、1人部屋もあるけど別途でちょっと料金がかかる。

・病室には、それぞれにベッド、机と椅子、鍵付きの棚と引き出しがあるだけ。普通の病棟のように個々人のテレビや冷蔵庫などはない。

・食堂兼談話室にお茶のポットがあり、自由に飲める。一応飲み物の自販機も1台ある。冷たいものが飲みたいときは自販機で買うしかない。

・携帯もパソコンも持ち込み禁止で、連絡手段として病棟内に公衆電話が1台だけある。

 


【1日の流れ】

 

6:00 起床。
7:20 朝食。
8:30 検温。
9:30〜 入浴。
11:30 昼食。
13:30 ラジオ体操。
17:30 夕食。
20:30 就寝前の薬の配布。
21:00 消灯。

 

6:00 起床
「おはようございまーす」と強制的に病室の電気がつけられる。私は大体このタイミングで目が覚めてたけど、早起きの患者はそれよりも前から廊下を徘徊してたりする。でも私は実際は朝食まで二度寝して朝食後に歯みがきと洗顔してた……

 

7:20 朝食
食堂 兼 談話室 のような場所があり、食事はそこで1人ずつのトレーが配られる。食堂で食べても病室に持ち帰って食べても良い。広くて明るいから私は食堂で食べてた(席数に限りがあるためどうしても他患者と相席テーブルになるけど)。すべてのトレーにはそれぞれ患者のネームプレートが乗っていて、取りに来なかったらバレる。メニューは基本的にはみんな同じだけど、アレルギーがある患者や高齢者で柔らかいものしか食べられない患者はちゃんとそういう仕様になっている。
基本的にあんまりおいしくないので箸が進まない。私はチェックされてなかったけど、食事や栄養状態に問題のある患者(たぶん摂食障害の患者さんとか)はどれだけ食べたかを毎回看護師さんに記録されてたみたい。
食後の薬がある患者は受け取って飲む。

 

8:30 検温
病室に看護師さんが2〜3人でやってきて、健康状態の確認。体温はかって、脈もはかって、血圧はかるひとは血圧はかる。
昨日のトイレの回数を大小それぞれ聞かれる。調子はどうか、何か不安なことはないか、なども聞かれる。

 

9:30〜 入浴
お風呂は曜日固定で週に3回。あんまり広くはないけど病棟内に浴室がある。シャワーは5か所で、一応つかる湯船もある。順番がきたら看護師さんが呼びにきてくれるので、順番に入浴。介助が必要なおばあちゃんもいるから、脱衣所にはスタッフさんが常に誰かしらいる。

 

11:30 昼食
朝と同じ。

 

13:30 ラジオ体操
毎日ある。自由参加。ピンポーンと放送が流れて「ラジオ体操をします。よければご参加ください」と。看護師さんがラジカセを持ってきて、廊下でCDを爆音で流して、みんな廊下で体操する。私は1回だけ参加したけど、参加率はどう見ても半分未満。

 

17:30 夕食
食堂のテレビ(チャンネル争いを避けるため2台ある)はどちらも夕方のニュース。

 

20:30 就寝前の薬の配布
ナースステーション前で、就寝前服用の薬が配られる。もちろん就寝前の薬がない患者もいる。患者がお茶の入ったコップを持って並び、順番に看護師さんから受け取って飲む。たぶん眠剤とかが多いんだと思う。私は薬のタイミングは就寝前だけだから、忘れずに並んで受け取って飲む。

 

21:00 消灯
「おやすみなさーい」と強制的に病室の電気が消される。一応ここで1日は終わり。
しかし消灯後も眠れない患者はナースステーションに行って不眠時の頓服薬をもらったりする(そういうことはザラみたい)。私は入院初日だけはなかなか眠れなくて、見回りにきた看護師さんが察してくれて頓服くれた。

 

これ以外の時間は基本的に何をしてても自由。ただ、治療のプログラムとして「作業療法(手芸とかしてるらしい)」や「アルコール教室(アル中の患者向けの何かだと思う)」なんかがあって、それに参加してる患者も多い。あとは先生の診察があったり、ソーシャルワーカーさんや心理士さんと面談したり。
あと、曜日固定で食堂で自由参加のレクリエーションみたいなやつがあって、カラオケ大会の日もあればDVD鑑賞の日もあった。

1日の流れだけ見てみると普通の病棟とあんまり変わらなそうな感じがするかも……

 


【患者】

 

とりあえず中年〜高齢者が多かった。若い人が結構いると思ってたからびっくりした。10代20代なんて全然いなかった。
私のいた病棟は、基本的には危害をくわえてきたりする患者はいない。そういうマジのヤバ患者は多分また別の病棟にいる。でも、危害は加えてこないでも、やたらひとりごとが多かったりテンションがおかしい気味の人間はゴロゴロいる。
具体的には(少しフェイク入れてます)、

・歩数を声に出して数えながらずっと病棟の廊下を往復し続けている少年
・廊下に座り込んで音楽プレーヤーでコブクロを聴きながら歌ってるばあちゃん
・毎晩必ず廊下で寝ようと試みるじいちゃん
・一日中洗面所の鏡の前に立ってる女性
・毎日ナースステーション前で「リスパダール(頓服の安定剤)ちょうだい!ねえ!ちょうだい!」って大声出してたおばちゃん

他にも、うまく言葉にできないんだけど「なんか様子がおかしい」という人がたくさんいた。うまく言葉にできないおかしさ。患者さん見ててそれがいちばん奇妙だった。もちろん、そうでない人もいた。はたから見て「一体この人はどこが悪くてここに入院しているんだろう?全然普通じゃん」と思うような患者さんもたくさんいた。まあ、はたから見てわからないようなところが調子悪いから入院してるんだろうけど…
先生いわく、みんな大体3か月以内には退院していくけど、長いと半年以上ずっと入院してる患者もいるらしい。
あと患者どうしで仲のいいグループみたいなのもあるように見えた。食堂でトランプとかオセロとかしてた。私は心の余裕なかったし友達などは特にできなかった。

 


【私個人の感想など】

 

・入院の形態(?)には大きくわけて2種類あって、患者自身が同意のうえ入院するor患者の意思関係なく強制的に入院になる のどちらかで、今回の私は前者。
・で、私のいた病棟は、その割合は6:4らしい。つまり4割の患者さんは強制入院でそこにいたということ。
・環境の変化に弱いタチだから、入院して3日くらいは「急にこんなところに飛び込んでしまって呆然」って感じで過ぎてった。わけがわからないまま呆然としてたら3日過ぎてた。
・3日経って慣れてきたら、あとはもう「帰りたい」の一心だった。ひたすらそれ。
・もちろん4人部屋だった。たまたま同室はひとりごとが多い人たちだったから最初はめちゃくちゃ怖かった。
作業療法など各種プログラムに一切参加していなかったため、時間がとにかく有り余っていた。基本的に読書をしていた。
・あと音楽プレーヤーは持ち込みOKだったから、とにかく読書と音楽にすがりついて正気を保ってた。
・入院の原因となった酒&薬物をキッパリ絶ったことよる幻覚や幻聴や禁断症状などは特に出なかった。
・病棟から自由に出られないから、やっぱり「閉じ込められている」という感覚が強く、どうしても払拭できなかった。
・ごはんがあんまり美味しくなかったからほぼ毎食残してたら少し痩せた。(ヤッター)
・どんなに歩き回っても同じ景色しか見えないのが一番しんどかった。せめて病棟を出て病院内や敷地内を散歩できたらいいのに。
・孤独感が強かった。公衆電話あるとはいえ携帯もパソコンも奪われると、普段どれだけ通信端末に依存してるかがわかった。
・とりあえず入院してれば心身に何かあってもすぐに対応できるから、薬を変えたりいろいろ試してみたりできる。その点は通院治療では無理だし、入院して良かった。

 

やっぱり「閉じ込められている」という認識がどうしても払拭できなくて、漠然と「ずっとここにいたら気が狂う」と思った。実際ちょっと狂いかけた。ちなみに主治医の先生に「ここにいると頭がおかしくなりそうで怖い。早く家に帰りたい」と伝えると「そう思うのが普通だから大丈夫」と言われた。
でも、ここにいる人たちは、もしかすると 外の世界にいるほうが頭が狂いそうになるからここにきたのかもしれない と思った。閉鎖病棟ってそもそもそういう人たちのための施設かも。
もっと、鉄格子だとか鍵のかかった病室だとかそういう暗くて怖い刑務所みたいなのを想像してたけど、思ったより明るくて風通しの良いところだった。


でも、二度と行きたくない……

これから死ぬまで疎遠でいよう

歯の痛みが止まらないのに不幸にも自宅に鎮痛剤がなくて、諸事情により飲めるまで最低でもあと大体90分あってもう耐えられないから気を紛らわすために久しぶりに長い文章を書きます。
こないだ母が会社の旅行で行ってきたおそらく長野らへんのお土産のりんごハイチュウを食べていたら古い歯の詰め物が取れた(そのぐらい予想できることだったのに定期的にくる「ハイチュウ欲」に負けた)。取れたものはいつ詰めたかも忘れたくらい古かった。金属なのにところどころ削れていた。それで仕方なく何年ぶりかに歯医者に行った。先生が森本レオみたいで優しい、中学生の時からかかりつけの地元の歯医者だった。そしたら、診てもらった結果なんかめっちゃ虫歯あることが判明した。嘘やんけと思った。先生は森本レオの口調(ショムニの課長)で悲しい宣告をして私の心をバキバキに折った。結構ショックだった。これからの治療の日々を思ってどんよりと気が重くなった。
歯医者行く前は「歯医者怖いなあ」と思い、歯医者で処置されてる最中は視界の端にきらきら光る器具をとらえては「歯医者ってやっぱり怖いなあ」と思い、歯医者を出たあと「歯医者怖かったなあ」と思った。つまるところ終始怖かった。私は、漠然と、大人になったら歯医者は怖くなくなるものだと思っていた。だからその理屈でいくとその日27歳の私はまだ大人ではないということだった。絶望。
明日の通院では(予定では)1か所だけ神経を抜く。昨日までは歯医者行くの嫌だな〜と思っていた、それなのに今朝からの歯の痛みが歯医者の怖さを余裕で上回ったため一刻も早くどうにかしたくて心から歯医者を求めている自分に気づいた。痛い。4錠出されていた鎮痛剤はもう飲みきっている。痛い。私は無力です、だから医療の力で助けてください。麻酔バンバン打って、きらきらの尖った器具で病んだ歯を容赦なく削ってください。助けてください。お願いします。今この瞬間は、歯医者を怖いとは思ってない。だってそれどころじゃないから。歯医者は救済の施設へと姿を変えた。そして通院日は、何本もある虫歯をすべて根絶するゴールまでの大切なセーブポイントだ。医療機関って本来そういうもんかもしれない。助けてくれるのに怖がったりしてごめんなさい。痛い。

 

それで、痛くて、どっかにバファリンでもなかったもんかよと家中を探していると、部屋から抗精神薬がたくさん出てきた。ウワァと声が出た。そういえば持ってたんだった。私はこないだ精神病棟に入院していてその原因のひとつには薬物の乱用があって、まあいろいろじゅうぶん懲りたし、もう変な気を起こすことはないつもりではいるけど、でも、これは今すぐに処分しようと思った。それも絶対に取り返しのつかない形で。今すぐに。
インスタ映えを狙って家の裏の畑で燃やそうと思ったけど火の扱いが面倒だったしダイオキシンとか出たら嫌だし(よく知らんけど)、歯の痛みをごまかすための散歩も兼ねて、近所のダムに葬ることにした。薬のシートをパキパキ割って細かくして、輪ゴムで大きめの小石にくくった。小石は全部で4個になった。それを1個ずつ湖面に向かってブン投げた。好きな漫画の好きなキャラクターが、すごく口が悪くて、バトルとか物を投げるときとかに「死ね」と言って投げるから(かけ声?)、私も真似して死ねと念じながら投げた。死ね×4回。助走までつけてガチの全力で遠投したのに私には肩の筋力が足りていなかったらしく、湖面まで到達してチャプンと沈んだのを確認できたのは1個だけであとの3個は手前の崖の木の茂みの中に落ちた。それでも心がスッキリした。深緑色を眺めていたらすがすがしくも穏やかな気持ちになって、ちょっと涙ぐんだ。ダムなんか見ながら勝手にひとりでエモかった。あばよ薬物乱用、うちらこれから死ぬまで疎遠でいような。
そしてエモさが去り冷静になり、ダムはゴミ箱ではないという当たり前すぎる事実を思った。今日は祖父の82歳の誕生日なのに、じいちゃんごめんね、孫はお見舞いにも行かず仕事もせず全身全霊でポイ捨てをしています。一族の汚点です。立派な不良になりました。私生きるからじいちゃんも長生きしてください。

 

こないだは遠距離恋愛中の恋人が富山まで会いにきてくれた。遠距離になってから、彼がこっちに来るのは初めてだった。嬉しかった。ずっと楽しみにしていた。それなのに残念ながら彼は雨男で、こっちに来る日だけピンポイントで雨天、ひいては荒天だったため、さすがに富山市の上空(と彼)にキレた。
生まれ育った土地の風景に東京で出会った人が写り込んでいるのはエラーみたいで終始かなり変な気分だった、不思議な体験。私はそれまではあんまり彼の写真を撮ることはしなかったけど、エラーみたいな風景がどうしても面白く見えて、ここぞとばかりに携帯でたくさん写メを撮った。
私は基本的に富山が好きだと思う。でも、何もない。東京にないものはいろいろあるけど、それでも東京に比べたら圧倒的に何もない。東京で8年暮らしてこっちに帰ってきてやっぱりなんとなくそう思った。つまらん土地やろ?と彼に尋ねると「東京と違って空気おいしい」と都会の人っぽいフォローをくれた。口下手な人だからアレだけど、やっぱりちょっと申し訳ない気持ちになった。
前述の通り私はこないだ入院してて、そのことについて入院から退院まで家族しか知らないような詳しいことをスタバで説明した。私にとって今回会う目的の中の1つだった。テーブルのマンゴーなんちゃらフラペチーノから視線をあげたら、彼はめったに見たことない怖い顔をしていて、ハッとした。私はこの人に馬鹿でかい心配をかけていたんだということをその時はじめて本当に知った。遠距離恋愛といえども、そんなこと顔を合わせて話さなくてもわかってるべきだった。感謝と申し訳なさが一瞬で超絶怒涛にブワーッとこみ上げてきてその場で乳幼児みたいにビャービャー泣きたくなった。でも、こんなところ(スタバ)で・男女が話してて・しかも女のほうが泣いてたら、はたから見たら絶対100パー別れ話なうの図やんけと思って、そこは理性とプライドでこらえた。冗談で、どや、そろそろ私のこと嫌になった?と尋ねると「嫌になってたら今日わざわざ富山まで来てない」と即答された。Q.E.D.証明終了!なんていうかこの人はマジのアホもしくはマジの聖人だったんだなと涙をこらえながら思った。どっちでもいい、でもマジのアホのほうならずっと正気に戻らないでほしいし、マジの聖人のほうなら私も聖人レベルをもうちょい上げるまで待っててほしい。もうどっちでもいいや。
それから魚などの美味しいものをたらふく食べたり、高校生がたむろするゲーセンで遊んだりして、彼は雨風の中バスに乗って東京に帰っていった。私はバスを見送ったあと駅ビルで少し時間をつぶしてから、1時間に1本の電車に乗っていつもの無人で無改札の最寄駅に帰った。帰宅して、彼がお土産にくれた東京バナナジェネリックみたいなやつの箱を出すと、私が許可する前に父が嬉しそうに包装を派手にビリビリ破いてアメリカンな感じに開封した。我が家に常備されているお菓子はたいてい柿ピーと蒟蒻畑しかなくて、だから東京バナナジェネリックは我が家にはすごい高級品っぽかった。家族にも好評で、美味しかった。
何気なくカメラロールの画像を見返したら、撮ったやつ全部が見事に曇り空でウケた。そして彼が東京に戻った途端に晴れてきた富山市上空(と彼)に再度キレた。体重は2キロ増えていた。

 

あ、無事さっきイブクイックを入手しました。でも長い文章書いてたら歯の痛みちょっとおさまってきた。すごい、ブログセラピーワンチャンあるくさい。できたらこのまま痛みフェードアウトしてください。

7月8月の読書記録

13階段 / 高野和明

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なんかのきっかけであらすじを知って、これ絶対私好きな系の話だろうなって中学生くらいのときからずっと気になってて、読もう読もうと思いながら読んでなくて、図書館行ったら閉架だし、そしたらたまたまブックオフで入手できてようやく読めた。そういえばこれ15年くらい前の本なんだ。
物語は、犯行時の記憶を失った死刑囚の冤罪を晴らすために謎を追う話。伏線ひろいながら読んでたけど何回も裏切られて、ジャンルは多分ミステリなんだけど、真犯人は最後までわからなかった。読みごたえ十分でありながらも、なんだかあっさりしてて救いがない終わりだったけど(あ?これで終わりなん?みたいな)、死刑の是非についてはめちゃ考えさせられた。死刑の意味って何だろうとか、被害者遺族のこと、加害者家族のこも、そして特に死刑を執行する刑務官の立場や実際の執行についての描写がめちゃ切実で重くて読んでてつらいけどグングン読んじゃって、でもこういう現実は今うちらが生きてる世界に、現代の、日本に、今まさに、確実に存在していて、関わらざるをえない職業の人がいて、執行されて死んでいく人がいる。なんか知らんけど私は死刑に触れる物語や本に縁があってちょいちょい読んでたから過去にあった冤罪とか死刑の執行方法とかは知ってたけど、今の日本、死刑がめちゃクローズドな環境で執行されてて、いつ執行されたかも事後報告だし。死刑だけじゃない、刑務所もクローズド、囚人もだけどそれに関わってる職業の人たちもすごくアンダーグラウンドなイメージ、あと裁判員制度とかの話にもなってくるけどそれもすごくクローズド。なんかそういうことをいろいろ考えてしまった。死刑と冤罪の本は森達也さんの本を気合い入れて1冊読みたい。

 

■ばかもの / 絲山秋子

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アル中の話だ、とTwitterで紹介されてるのを見かけて読んでみたいと思い、図書館で借りてきたはいいものの、めちゃ面白い話なんだけど私自身がこれ読んでる時まさにアル中気味で、というかハッキリ言って酒めちゃ飲みながら読んでて、本当にクズだなぁと思うんだけどそれで、読んでる最中はすごい心を動かされた気がするんだけど今内容を全然思い出せないので再読案件です。アル中の描写、怖かったし、読んでてつらかった記憶はある。でも読みながら、怖いなって思いながら、飲んでた。結局タイトルの「ばかもの」は私のことでした。

 

阪急電車 / 有川浩

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これも酒飲んで読んでたからあんま覚えてない。本当にクズだな。なんか老若男女が登場した気がする。読後の「読書メーター」(読み終わったらすぐつけてる読書記録アプリ。いつも感想とか軽く書き残しとく)によると、「恋愛パートにキュンキュンした」と書いてるんだけど、内容の具体的なエピソードの記憶がやっぱりあんまないよね。ちなみに読んだ理由は、ヒット作っぽいから。これも再読案件行きです。

 

■連続殺人鬼カエル男 / 中山七里

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「どんでん返し 小説」でググったらおすすめリストによく名前が挙がってたから読んだ。いつかの年の「このミステリーがすごい大賞」の最終候補?か何からしい。もう、とにかくグロい、痛々しい。猟奇的だ。「人がバンバン死んで最後にどんでん返しがある系」のジャンルの本が自分は好きなんだと思っていたけどちょっとそうじゃないのかもと思わされた、だって実際これ読んでて結構きつかったもん。不快だった。なんか、登場人物に「裏切られる」瞬間が何回かあるんだけど、人が、てのひらを返したように別の人格になるのが全く怖すぎて仕方ない。ヘタな心霊映像よりずっと怖い。本当に怖いのはオバケでも恐竜でもなく、人間の心の奥底にひそんでいる狂気なんだという事実を嫌ってほど思い知らされた。だから、この手の物語はしばらく控えようかなーと思った!
あと、主人公、これでもかってくらい、いろんな人にフルボッコにされる。暴徒化した市民とか黒幕とかに。壮絶な戦闘シーンが描かれる。暴力が。めちゃ痛そうだし出血とか骨とかヤバイ、読んでてこっちが痛くなるくらい。たぶん普通に考えて作中で3回くらい死んでるんじゃねって思うくらいの濃度でフルボッコにされる。でも主人公だから最後まで死なないんだよね〜(ネタバレごめん)。すごいよ。ルフィかよ。週刊少年ジャンプかよ。

 

■ほかならぬ人へ / 白石一文

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直木賞受賞作だからわりと期待して読んだけど。だからさ〜〜人が死ぬ恋愛小説はずるいんだって〜〜、だからさ〜〜、と思った、簡潔に述べると。私は自分の愛が重いか軽いかすらわからないし、愛した人に裏切られたこともなくて、早い話が人生の経験めちゃ浅いから共感はできない。でも、好きだった人と不本意にお別れしたときの、失ったときの、果てしなく悲しい気持ちはこの本読んでてなんとなく想像できた。この本から得るものはそれだけでいいかなと思った。失うこと考えると、何かを所持しておくことが怖くなった。でもそういうつらいことも乗り越えて生きてくしかないんだよなあ。

 

■生きてるだけで、愛。 / 本谷有希子

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再読本。手放そうかと思ってたけど、この本やっぱり手放せないやと思い直した。この本、私にとって大切だわ。今を生きるすべての「メンヘラ」と呼ばれる女性はこれを読むべきだよ、特に布団から動けない系のベクトルでメンヘラの。私はこの主人公に痛いくらい共感してしまう。「痛いほどわかる」なんて、本読んでて思うことあんまないからこれはすごいよ。まず薄いからすぐに読めちゃうのがいい。あとすごい砕けた文章が私には心地よくてスラスラ読める。のめり込んじゃう。どうしてうまくいかないんだろうっていう生きづらさ、息苦しさ。「今度こそ大丈夫かも」って思ったのに自らの手でダメにしてしまう自分。痛いほどわかる。最後に光が見えるかどうかはわからんけど、この本が世の中に発表されていて流通していること、芥川賞のノミネート作品になったということと、これを読んだ人が私以外にもきっとこの世界にいること、それらのことが救い。存在してるだけで救いになる本だ。そんな本あんまないよ。やっぱ手放せない。

 

■教団X / 中村文則

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なんか話題になってるらしいから読んだ。うん、話題になってるらしくて。だけど結論からいうと、はっきり言って私は社会や政治や歴史のことを知らなすぎるせいで(=きっと私より歳上の人たちにとって「常識」とされているであろうそういったものたちを知らなすぎて)、だから読んでて「?」ってなる部分がたくさんあった。主にカルト宗教の教団を中心に物語が広がっていくんだけど、話題がいろんなところに及んでて、まあ本筋ではなく枝の部分なんだけど。いや、本筋なのかな……それすらもわからん。ストーリーを追うのでいっぱいいっぱい。キーワードは宗教、神、運命、国家、政治、などかな。あと靖国神社とか東京裁判とか。ああこの人社会学やってた(る)んだなあと思った。でも宇宙とか原子とかの理系な話もたっくさん出てくる。それは巻末の参考文献の一覧みたらなるほどね〜これ書くために勉強されたんかなぁってなる。
芸術表現っていうものはいろんな方法や形式があるけど、ジャンル問わず「好きか嫌いかの好みは置いといてとりあえずヤベエ」みたいに圧倒されるものってあって(「これは私好きか嫌いかで言ったら正直嫌いだけどなんか知らんけどめちゃ濃かったわ〜」みたいなことあるやんそれよ)、この本がそれだった。文学の力ってこういうことなのだろうか……って漠然と思った。
読後、ネットでレビューをみてみたらやっぱ賛否あるみたいだ。ボロカスに書いてる人も少なくなかった。エロ描写わりとアレだし、女の人の扱いもアレだし。でも売れてるという結果は確かにあって、数字も出てる。本ってまず読まれなきゃ、出会わなきゃ、評価も何も始まらない。そう考えると、前提として「売れてる」って事実は単純にすごいんだよなあとか思ったりした。読んでみたら、とうてい「売れる!」とは考えられない内容だけど。
ネットで作者のインタビューも漁ってみた(私は作品に興味をもったら同時に作者にも興味を持ってしまうタイプだ)。ご本人は「自分は純文学作家だ」と強く主張してらっしゃるようで、純文学っていう枠の中はめちゃ自由なのかもなー!と思った。
過去にこの人の短編集「A」を読んだけど、3つのボールが部屋で跳ねてるだけの話とかあったから(意味わからんくない?)、この作者の本はきっと私には早すぎるんだ……と思ってた。でもこの本読んで、「歩み寄りたいな、わかりたいな」と思った。なんでだろう?不思議ね

 

■第2図書係補佐 / 又吉直樹

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再読本。めちゃ「いい本」だと思う。内容は、ピース又吉の読書エッセイ。といっても、主に又吉の過去の体験や考えが4ページほど書かれて最後の数行でその文章にまつわる本を紹介するよー×25回、みたいな感じ、だからどこ開いても読める。紹介される本にも興味がわく。私が読んだ本も何冊かあって「おお」と思った。あとこの人芸人だからかやっぱり文章の内容が面白いんだよなあ。
だけどだけど、それより何より、これ読んだら絶対又吉のこと好きになっちゃうってことが重要だ。いや、読んだ結果やっぱり「コイツ芸人のくせに、ただのナードやん」て思う人もいるかもしれない。でも私は「ピース又吉」をそんなに知らずにこの本を読んで、彼のことめちゃ好きになってしまった。好印象でしかないよ。太宰に心酔してること、心に闇を抱えてるであろうこと、「情けない側」の人間であろうこと、そして何より、本が好きなことがめちゃ伝わってくるもん。芸人なのにこんなに陰のある人いるんだ、って又吉のこと身近に感じた。あと読書量すごそう。
この本は「火花」が出る何年か前に出ていて、私は「火花」芥川賞受賞後にこの本を見かけて読んだ。又吉の本やんけーって。その結果「火花」めちゃ読みたくなってる。この人、一体どんな小説書くんやろ!?って。あとこの本で又吉が紹介してる本ももれなく読みたくなる。
実は前述の「教団X」は又吉が絶賛してたから読んだっていうのもある。又吉は中村文則氏の大ファンみたいだ。巻末の対談も面白かった。

 

■架空の球を追う / 森絵都

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再読本。日常の中で苦笑いしちゃうシーンを切り取った掌編集。パパッと読めるからいい(パパッと読めるかどうかは私にとってかなり重要)。森絵都がふざけてる作品が好きで、これの中だと「ハチの巣退治」。あと森絵都はなんかグローバルなイメージがある、日本だけが舞台じゃないし日本人だけが登場人物じゃない。

 

■植物図鑑 / 有川浩

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主人公のOLはある日家の前で行き倒れていたイケメンを拾って、同棲生活を始めるんだけど、そのイケメンは主夫で植物オタクで、2人で野草を採りに行っては晩ごはんに料理して食べさせてくれる。という夢のような内容。装丁はカワイイし、登場する野草のカラー写真とか載ってて楽しい。
ただ、完全にフィクションと割りきって楽しまねばならない。こんなハイスペック男子がいきなり現れて同棲なんてあるわけねーんだよ!!!イケメンで、家事できて、優しくて、理性的で、お金のことも考えてくれて、草食系と見せかけて一枚皮めくると肉食系で…… って女子の理想が服着て歩いてるような彼。好きにならないわけがない。
前半は野草採ってしばいて食べてるのの繰り返しなんだけど、徐々に増えてくる恋愛の描写は糖分多め。多めというかめちゃ多い。ハーレクインかよ。めちゃ甘い。幸せでスイート。ゲロ甘。だがそれがいい。なぜならフィクションだから。フィクションの中でくらい夢見てもいいやろ。ということで思いっきり浸りました。読後まず書いた感想「あー、キュンキュンした!」だった。

何もできない

順調かと思えたパートタイムジョブに、ある日突然行けなくなってしまい、そのまま私が自主的にやめるような形でクビになった。東京を離れてからアイデンティティをずっと探してたけど、とうとう自信が底をついた。こんな簡単なことすらできない自分なんかにはもう一生何もできないんだとまで思った。でも自業自得だから仕方なかった。自尊心がズタボロだ。(まー仕事が合うか合わないかで言ったら合わなかっただけの話よね〜!ギャハハ!っていう自分も半分いるから大丈夫だけど)
仕事をやめる少し前、かかりつけの心療内科の病院に行って最近のことを先生に話した。朝から酒を飲んで1日ひっくり返ってるだけの日がしばしばあること、それを心配した家族に財布を預けるも抽斗の奥などからお金を見つけて酒を買いに行ってまた同じ繰り返しをしてしまうこと、それが理由で仕事をサボった日があったこと、それが理由で友達との約束をキャンセルしてしまったこと、それなのに飲まなきゃ不安で不安で酒がやめられないこと。
先生は仕事をやめなさいと言った。ストレスの根源はきっと仕事にあると。私の病気「強迫性障害」の患者は、細かいお金のやりとりや数字の確認などといった仕事を最も苦手とするということらしい。スーパーの中でもレジはその最たる部門だ。言われてみればいつも出勤前「間違えたらどうしよう」「取り返しのつかないことをしてしまったらどうしよう」と怯えていた。その怯えが膨らみすぎて出勤できなくなったのかもしれない。先生のアドバイス通り、仕事をやめた。

近頃何もしてない。ギターも弾いてないし歌も作らないし詩も書かない。何もつくる気がしない。創作に対する意欲がない。
何をしているかというと、唯一本だけは読んでいる。アニメも見ている。音楽はきかない。
楽しそうなことしてキラキラしてる友達をiPhoneごしに見ている。私は今はそっちへは行けないな。さみしくも悔しくもなく、ただそういう事実だけが横たわっている。
東京は、夢みたいな場所だ。本当にあの土地に、また戻るのだろうか。

スーパーマーケットファンタジー、そして酒クズと図書館

富山に帰ってきてから2か月、3件不採用を経たのちようやくバイトが決まり、めでたくスーパーのレジを始めた。車を使わずに家から行ける距離で、私が幼い頃から何度も何度も母と買い物をしたことのある小さなスーパーだ。よっぽど人が足りていないらしく、履歴書をもって行くと即採用になった。
スーパーのレジは高校生の頃に経験があった。茨城県での夏フェスに行くために、学校(バイト禁止)に内緒で夏休みの短期アルバイトとして朝から夕方まで毎日レジ打ちで旅費とチケット代とグッズ費を稼いでいたのだ。今の職場は当時通っていた店の系列店なのでいろいろと気楽だった。あれから約10年のブランクを挟んでいるし、当時は今ほど普及していなかったエコバッグやレジ袋有料制など面倒なことはあるが、レジ打ち自体は徐々に調子を取り戻しつつある。何より「レジやったことあるがね? なら大丈夫やちゃ」「あんたの研修今までのバイトの子でいちばん短時間でラクだったわ〜」とスキルを認めてもらえて、ほとんどすぐに戦力として使ってもらえているのがありがたい。(ちなみに昨日「あんたこれからどっか就職すんが? ずっとここで働く気っちゃない?」と言われた。どんだけ人足りとらんのや)
我ながらとても良い質の接客だと思う。はっきり喋れる人間でよかった、あとかわいい声に生まれてよかった。所作を丁寧に丁寧にこなすと、おつりを渡す際なんかに客側も「ありがとう」「お世話さまです」と言ってくれたりする。多少ミスしたとしても笑顔で許してくれる。
ただ、そんなふうに私の神接客を以てしても何かが気に入らないらしく文句をつけてくるババアはいる。ババアのみならずジジイもいる。しかし彼らはそういう生き物なので仕方がないと割り切るしかない。

レジにいると、カゴの中身を通してその人の生活がなんとなく見える。
ホットケーキミックスと蜂蜜とホイップクリームを買う母娘。揖保乃糸とめんつゆを買うおばさん。鬼ころしのパックや焼酎のボトルとサラミを大量に買っていくおじさん。高い味付き肉とエバラ焼肉のタレとサニーレタスを買っていく家族連れ。ゴミ袋やラップやスポンジなどの日用品をまとめて買っていくお兄さん。小銭を握りしめて半額のアイスを1個だけ買っていく子ども。
人を見た目で判断してはいけないが、カゴの中身とギャップがあるときは少し「おっ?」と思う。

図書館でや塾で働いていた時と比べて、やりがいは1ミリも感じない。たまに同級生や同級生の家族がきたり、客と世間話をしたり、小さな子どもと接したりするという楽しみがないこともないが、基本的にはゆっくり流れる時間との戦いだ。同じ動作の繰り返し。出勤して、レジに立った瞬間からもう帰りたい気持ちになる。壁の時計を何度も見てしまう。それでも、この田舎で車の免許を持たない私が家から通勤できる圏内の数少ない商業施設に雇ってもらえただけでも御の字なのだ。ついでに、ありがたいことに三角巾のようなものを被って勤務するため頭のハゲも隠れる。ありがたい。文句を言っている場合ではない。それに、別にやりがいや生きがいを求めてスーパーのレジ打ちをやりにきているわけではない。金、欲しいのは金だ。家でぼんやりしている無為な時間を現金に変え、人と関わって生きて、さっさと目標額まで貯めて一刻も早く東京にいる恋人と暮らすと決めたのだ。働くしかない。働くしか。

 

バイト先を出てすぐそこに、図書館がある。役所仕事の施設も併設されていて、かつては児童館もあった建物だ。ナントカ総合センター、みたいな感じ。幼稚園や小学校とも近い。そこまで広くはないが、間違いなく人生で最も訪れた図書館だった。どこにどんな本があるか、つぶさに知っている。児童図書も一般図書も、幼い頃からこの町を出ていくまでに読んだ本がたくさんある。ここで宿題もしたし、受験勉強もしたし、小説も書いた。不登校の時にも通った。

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↑美しいよね。どの本も、それぞれのやり方で自分を主張してる。
この図書館のロビーには公衆電話や自販機や長椅子があって、学校帰りの小学生たちの溜まり場になっている。小学生の占拠していない部分の長椅子に腰掛けて、夜寝る前に飲むつもりで買った缶チューハイを取り出し、開栓する。

 

ヤベーーーーーーーー

 

背徳感とアルコールでフワフワする。おいしい。そしてとても強く強く、罪の意識。昼間から外で酒を飲んでいる。とても健全な場所で、こんなことをしてしまった。小学生たちはこんなところで座りこんでいる私をどう見ているんだろうか。下校時間帯に飲んでるダメな大人だろうか。それとも、すぐそこに自販機があるから酒の缶をジュースやお茶だと思っているだろうか。
「今日バイト頑張ったんだし別にいいじゃん、あと歩いて帰るだけなんだし」心の中の悪魔が言う。
「こんなところでこんなことしてるの明らかに普通じゃないよ、やめなよ」心の中の天使が言う。
しかしもう開栓してしまった以上飲むしかない。飲む。自分クズだなあ〜と思っていた自責の念が、罪悪感が、ナントカ総合センターのロビーから吹き抜けへ向かってすぐに溶けていく。おいしい。おいしい。
飲み干してゴミ箱に缶を捨てて、ほろ酔い状態で図書館に入る。意識はしっかりしているが、視界に入る本棚の本すべてが面白く見える。心理学、名付け辞典、宗教、農林水産業の抱える問題、名前も知らない偉人の一生、いきものずかん、弁護士になるには、としょかんのつかいかた、1人ぶんの朝ごはん、トムソーヤの冒険、横光利一の全集、上手くなるサッカー、尾木ママの本、子どものためのドラッグ大全、村上春樹、もうどれもこれも面白そうで、館内をフラフラと歩けばあれもこれも読みたくなって、手に取っては目次だけ眺めて棚に戻す。特に児童図書が楽しい。あー、酔ってる。最高。楽しい。やっぱり私は図書館が好き。大好き。大好きだ。文字の海、情報の海に溺れていたい。たくさんの資料たちが、誰かに伸ばされる手を待っている図書館。触れていたい。
また図書館で働きたい。これが私の願望だ!
そして、思い立ったらすぐに行動をおこしてしまうのが私の長所であり短所である。
カウンターにフラフラ近寄り、パソコンでお仕事をされていた小太りのお兄さんに尋ねる。
「すみません」この時点で私は酒臭かったのかと思うとあらためてクズだなあと思う。
「はい」
「あの、トヤマ市立図書館って本館の他に分館がたくさんあるじゃないですか」
「ええ」
「その、それらで働いとられる方たちって皆さんすべて司書の資格を持っとられるんですかね」私は司書の資格を持っていない。
「あー……一部、ですね」
「一部?」
「いわゆる普通の、パートの方とかも少なくないんですよね」
「はあ、そうなんですね」
「はい……」
「……」
「……」
「今って」
「はい」
「こことかって、求人とかってしてないんですか」
「あー……」
「……」
「ここの分館からは出してないんですけど、本館がまとめて出してますね」
「ああ」
「求人に関することも、本館に問い合わせてみればいいと思います。それこそ電話とかしてみるといいかもしれないですね」
「なるほど、そうですよね。すみません、ありがとうございました」
司書資格がなくても働いている人はいる!ヤッターーー!!!せっかく安定してきたスーパーのレジを放り投げて、私でもパートとしてどこかの図書館に採ってもらえないだろうかなどと酔った頭で考える。バカだから。しかしそもそもトヤマにはいつまでも滞在しているつもりはないのだった。前述のとおりさっさと金を貯めて東京で恋人と暮らすのだ。司書の資格は、まあ子どもを産んで空き時間に勉強を始めるとかでもいいだろう。東京に行けば電車やバスという通勤手段があるし、働く場所なんていくらでもある。結局今はスーパーで金を稼ぐしかないし、図書館は利用者として楽しむのが最適解だろう。

 

目下のところ、レジの仕事に慣れてお金を稼ぐしかない。経験もあるせいか、わりと好調だ。明日から夕方〜閉店まで固定のシフトだ。閉め作業では、レジ以外にも鮮魚部門のこともしたりする。早く慣れたい。
ちなみに前述のお兄さんは昨日13時台に私のレジへお昼ごはんを買いに来た。たぶん私のことは覚えてなかったと思うけど、少しテンションが上がった。