無限ワンアップ・改

さゆゆだよお

ライフヒストリー・インタビュー by向坂くじら

文化人類学 春期レポート
ライフヒストリー聞き取り

2016年7月13日
シンガーソングライターとして活動する女性、片山さゆ里さんにライフヒストリーの聞き取りを行った。インタビュー時間は約一時間、新宿のファミリーレストランで食事をしながら。聞き手と片山さゆ里さんはポエトリーリーディングの大会で共演したことをきっかけに知りあい、以後SNSなどでの交流はあったが、ちゃんと話すのは今回がはじめてだった。
片山さゆ里さんは現在二十六歳、東京学芸大学の四年生。留年・休学を経ている。普段はひとりでギターを弾きながら歌うスタイルで活動しており、コンスタントにライブ活動を行っている。


■『片山さゆ里』になるまで

――よろしくお願いします

よろしくお願いします。

――なんでそもそも表現活動を始めたのかから、今日は聞いてみたくって。いつ始めたって言ってたっけ? 201……

2013年! はじめはバンドはじめて、バンドやるぞー! ってなったんだけど、バンドが爆発するのね。そのあと。爆発して、空中分解して、でもライブ予定決まってたの。そういうときって、ハコ(1)の人に頼んでキャンセルもできるんだけど、でも私は責任感が強くて。絶対穴埋めなきゃダメだって思って、じゃあ私ひとりでやろう、みたいな。そのときほぼ未経験でブランク超あったのに古いアコギ引っ張り出してきて、で、やる。みたいなのが、今に続いてる。最初はバンドメンバー見つかるまでのつなぎのつもりだったけど、やってるうちにひとりの味占めちゃって。ほら、誘いが来てもひとりだったらいちいちメンバーに確認しなくてもすぐ返事できるし。機動力はひとりの強みだから。

――もともとは、ボーカル?

ううん。ベース。

――ベースだったの!? ベースだったのにいまギターボーカルやってるの!?

ベースボーカルだったんだ。こんなはずじゃなかったんだよね。(笑)
うち、音楽一家で。両親がウインドアンサンブルのサークルで出会って結婚してるから、家はクラシック畑なの。めっちゃ。で、五歳くらいから高三まで私はクラシックピアノをやるんだけど、中学生の頃に部活とかでいろいろあって、部活やめたり……

――クラシックピアノ部?

ううん、最初はバレー部だった。なんかね、女子バレー部のレギュラー争い的な、なんか、ドロドロすぎて……もうムリってなってやめて、そのあと吹奏楽部に行くんだけど、そこでも私ちょっと問題を起こして。そのあとほぼ帰宅部と同義の茶道部に落ち着いた。

――それが全部中学

そう。中学。もう思い出したくない。(笑)
その部活やめたぐらいに、バンドに憧れ始めるの。富山の田舎だから、まず全然そういう文化がなくて、エレキギター見ただけでテンション上がるみたいな。そこから、まずはギターだと思って、父の職場の中学校に、使ってないボロボロのギターがあるって言ってそれを借りてきてくれて、それでギターを始めた。で、そのあと演劇に走ったりベース弾いたりして一回ギターがおざなりになり、でそれがここで回収されるっていう感じ。つながってる。

――じゃなんか、音楽を選んだのは当たり前みたいな感覚だった?

んー、でも私は物書きになりたくて。なんか、小学校のとき幼馴染と交換ノートしてたんだけど、それが自分のオリジナルの物語を書くみたいな。で連載しあうみたいな。のが、ノート五、六冊は続いて。で、「もも」っていう名前をつけてた。

――ノートに?

ノート、もしくはその行為に(笑) 「もも」って名前つけて……それはでかかったな。それも楽しくてやってたし。あ、で、大きい出来事があったのは、高校に入って、進路に迷うじゃん。で、私は「芸事をやる人を支援する仕事」につきたかったの。表舞台に立つ人の裏方のほうに行きたいなって思ってた。でも大きいターニングポイントになったのが、とあるラジオ番組と幻冬舎がコラボした企画があって。それがなんだったかっていうと、小説の第一話だけ書いたものを募集して、選ばれた六作品くらいが毎週そのラジオのサイトで連載する、みたいな。それにノリで第一話書いて送ったら採用されちゃったの。

――じゃあ連載してたんだ、すごい

してたしてた。もう、本当に……つらかった。ちゃんと幻冬舎の担当さんもついてくれて。それをウェブに載せたら掲示板とかに反応が書き込まれるのよ。それがすごい感動して。書くのはすごい大変だし、なんかファンタジー寄りの話書いてたから回収とかも大変だったんだけど、でもやりきって。それをやってて、やっぱり表舞台に自分も立ちたいって思っちゃったのよ。

――もともとは何で裏方がいいって思ってたの?

なんか、裏方に憧れてた。かっこいいなーって思って。
……いや、というか、表舞台に立つ人たちって選ばれた人たちだと思ってたから、自分も裏方なら、って思ってたのかもしれない。

――あれ? じゃあ、ずっとバンドやりたいっていうのと物書きになりたいっていうのは並行してるんだ。

そう。並行してた。
で、今もなんか、どうしようもなくなったら実家に帰って物書きになろうと思ってる。

――大学に入って、バンド始めるんだっけ?

バンド始めない。演劇始めるの。(笑) もうなんか、避けられない感じだった。学科がそういうとこだから。でも、舞台に立つことの楽しみを知っちゃったのは演劇だった。だからバンドやりたいやりたいって思ってたけど結局演劇に明け暮れてて。

――こんなこと聞いたらあれだけど……演劇やってて留年したの?

体悪かったのもあるかもしれない。鬱みたいな。起きられなかったりした。大好きなはずなのに、稽古さえ行くのもつらいみたいなこともあったよ。

――それはなにかきっかけがあったの?

んー、なんかね。単純に冬だからとか。(笑)でもまあ芝居打ち込みすぎたのは否めない。


■ 「私とまったく同じことをやるアーティストがでてきたら、私はたぶん「片山さゆ里」をやめると思う」

――私はこの質問はあんまり好きじゃないんだけど……自分が何を表現したいのかとか、考える? 聞かれたりして。

たぶん……なんか、誰もいないから。私がこんな人がいたらいいなあって思う人が実際にいたら、たぶん「片山さゆ里」やってない。

――それは、プレイヤーとしてってこと?

ううん、そうじゃない……何が表現したいのって言われたら答えはわからないけど、それこそお腹空いたときにご飯食べるのに理由いる? みたいな感じなんだけど。例えば高校生の時の私が、こんな人いたらよかったのにって思うような人……
で、私とまったく同じことをやるアーティストがでてきたら、私はたぶん「片山さゆ里」をやめると思う。

――こんな人いたらいいのにって、どういう人?

……(長い沈黙)……わからない。なんかね……ひとりじゃないよ、って言ってくれるみたいな。これ思ってるの自分だけじゃなかったんだって……言ってくれるような感じ。何が表現したいの、みたいな、それは考えたこともないけど。

――ひとりじゃないよって言ってくれるアーティストは、いなかったの? プロとかで

えっとね、思えば、いた。だから多分……うまく言えんわ、ごめん。……(長い沈黙)……だめだ、わからない。答えられないや……片山さゆ里みたいなことをやっている人がいたら、片山さゆ里をやめると思う。でも、いない。絶対、いないと思う。フォークギター持ってポエトリーリーディングをやる女子が現れたとしても……でも、その人が「万引きがやめられない」とか「親の宗教から逃げたい」とか(2)そういうみんながあんまり歌わないようなことを歌う。そういう人が現れたらやめると思う。でも今のところいないんだよね。
……どうかなあ。わかんないや。

――もしそういう子が現れたらさ、どっちかっていうと、嬉しい? いやだ?

嬉しいと思う。

――なに嬉しい?

なんか、仲間がいる! みたいな。っていうのは、演奏スタイルの話ではなくて、君もこういう、おんなじ気持ち持ってたんだみたいな。それこそそういうさゆ里のコピーみたいな人が現れたら、あー、君も生きづらいんだ、頑張ろうって思う。

――ちなみに、さゆちゃんの歌って自分の体験から作ってるの?

うーん、三割ぐらい。「親の宗教から逃げたい」はフィクション。万引きはやってない。(笑)
私、自分の髪の毛抜いちゃう病気で。それがやめられないっていう歌作ろうと思ったけど、パンチ強すぎると思ったから。この苦しみがわかる人ってたぶんいないから、窃盗癖くらいならみんな受け止めてくれるかなあと思って窃盗癖にすり替えた。
バスジャックも、あれは、死んだ後もずっと誰かの心にいたいっていうことが言いたくて作った。

――実はだけど、私も小学校から中学校くらいまで抜毛症だったよ。というか、さゆちゃんのツイートを見て抜毛症という病気があることを知った

ああ、そっか……よかった。

――あのとき自分に起こっていたことは病気だったんだ、みたいな。それでさゆちゃんに興味を持ったっていうのもある。
抜毛症なのはもうずっと、長いこと?

うん。長いね。

――どのくらいから?

小五くらいから抜毛は始まってて、いよいよやばくなったのは一人暮らししはじめてから、だれも止める人がいなくなってからだな。

――抜毛ってきっかけとかがあるもんなの? 私は露骨にいじめから始まったんだけど……というか、最初わざとやってたんだよね。いじめられてるってことをわかってほしくて、ストレスで髪が抜けてるっていう演出をするために毎晩抜いて枕に散らしてたのね。それがなんかくせになっちゃって、っていう感じだったんだけど……

私は天然パーマがいやで。すごい、いやで。ちょっと男子にからかわれたりもしたし。で、この縮れ毛がーって指で触ってるうちに、なんか抜くようになった。

■ 私にしか見えてない星

これはライブでよく言ってることなんだけど、私しか見えてない星があるの。みんな見えてない、けど光っている星があって……でも私見てるのね。みんな気づかないけど、絶対それを見てる人がほかにもいるはずで、私はその人と会って、この星、きれいだねって話をしたい。すごいちょっと、ポエマーだけど(笑)……っていう気持ちで、活動してる。それがだから、やってる理由かな。
なんかね。爆発的に共感してくれる人がいたり、みたいなことはないんだけど、でも片山さゆ里イイネって言ってくれた人はずっと応援してくれるし。

――最終目標はなんなの? 売れたい?

今の目標は、谷川俊太郎と対バン(3)することなんだけど(笑)
最終目標は、私が死んだときに全集とか出ればいいなって思ってる。なんか著作集みたいな。

――紙で、ってこと? CDじゃなくて、紙で

紙で! CD……(笑) CDであるべきだよね。だからやっぱ物書きになりたいんだと思う。なんか、図書館でバイトしてるんだけど、地下の書庫に行くといろんな文豪たちの全集があって、なんかいいなあって。

――現世で売れたい! とかはないの?(笑)

現世ね! でも、私が売れるってことは、私に共感を示す人が増えるってことだから、それって結構日本ヤバいかな(笑)とか思うけど……
なんか、売れたい、というよりは、影響力を持ちたい。

――あっわかるわかる。私も発言力持ちたい

そうなんだよね。片山さゆ里が言ってるってことは、結構大事な問題なんだこれ、みたいな。って言ったら宗教でも開けば? って言われるんだけど。(笑) 影響力持ちたい。

――なんか、そう思うようになったきっかけとかはあるの?

それはね、大森靖子(4)ちゃんがまだインディーズのときからつぶやきとかを見てて。段々発言力を得ていく様子を見てるから、すげえ、私もあんな風になりたい、っていう。ひとつのモデルとして憧れてるのはあるんだけど、なんか、影響力持ちたい……なんでだろう。
私はどちらかというと弱者のサイドだから、弱者のサイドにいて、で、発言力を持つようになったら、みんなきっと弱者のほうを見てくれるんじゃないかなって思うんだよね。だから私は自分が脱毛症ってこととか隠さないまま、発言力を持ちたい。

――弱者、っていうのは、どういう面での弱者?

まず、すごい思ったのが、髪の毛抜いちゃうっていうのは、なんかまあいろんな女の子を見てるとさ、当たり前に髪の毛あるじゃん。だからまずそれを幸せに思えよチクショーみたいなところがあって(笑) こちとら髪すらねえんじゃボケみたいな(笑) で、そういうのって人に言いづらくて、何も言えなくて抱え込んでるような人とか、あとなんか、私はクッソまじめで。ダメにまじめで。授業の提出レポートを、完成したのに「これ自分の中では完成してないから」って提出しなかったりした。

――それ単位落ちるよね

落ちる落ちる。バカじゃん。だから、なんか生きづらい人って確実にいて、それが万引きやめられない人とか、親の宗教から逃げたいとか、そういう人たちを弱者としたら私はそっちの側にいたいし、それをみんなに知らせたい。だから、発言力が欲しい。

――やっぱさ、生きづらいよね

うん。

――ずっと?

うーんとね……なんか、高校生ぐらいのときから、こんなこと絶対親に言えないけど、生きていることに罪悪感があるのね。生きてることに罪悪感があって、あはは……(笑)
たぶんそれは、両親が共働きっていうのもあるし、兄と弟がすごいしっかりしてるっていうのもあって、主に自分が穀潰しだから。だと思う。この罪悪感は。

――高校の時点で?

うん、高校の時点では思ってた。そのとき思ってたのは、なんか、私がいなくなればお母さんは楽になるのにみたいな。家荒れてて、そのころ。でなんか酔っぱらった母ちゃんが、「あんたなんか産まんければよかった」って言ったことがあった。で、翌日すごい謝られたんだけど……それがすごいショックだった。

――そのころからずっと、生きづらいなあって

生きてると金かかるじゃん。だからバイトしてるときはちょっと生きづらさから逃げられてる。

――歌ってるときは?

歌ってるときは……歌ってるときは楽しい。生きづらいとかはないんだけど、歌ってるときは、なんか、人がフロアにいて、見てくれてて、歌ってるときはあたし生きてていいんだ、ここにいる価値がいまは少なくともあるなって思える。

――で、片山さゆ里イイネって言ってくれる人がいて

そう、そういう人たちがいて、私いていいんだって思える。
生きづらい人ね、いろんなタイプの生きづらさあると思うけど、うまく行くといいなあって感じ。いろいろと。



(1) ハコ バンド用語でライブハウスの意
(2) 「万引きがやめられない」「親の宗教から逃げたい」 片山さゆ里発表の曲名
(3) 対バン バンド用語で共演すること
(4) 大森靖子 弾き語りなどで活動する女性シンガーソングライター

 

text   by 向坂くじら