無限ワンアップ・改

さゆゆのメモ箱

桃色の恋・最強の恋

見るものすべて桃色にフィルターがかかるようなバカな恋を、24歳でようやく卒業できた。遅い。遅すぎる。ずいぶん長い間、バカな女だった。そしてバカな処女だった。どうしてもこのひとが欲しくて欲しくて、自分のものにしたくて、この人じゃなきゃ嫌だった。自分がどれだけ想いを寄せても、どうしても応じてくれないという、そういう人間関係がごく身近に存在するということを痛いほど知った。「ごめん、さゆりの気持ちには、こたえられない」。そう言われて、半年後にもう一度気持ちを伝えた。もちろん返事は同じだった。今思えばとても迷惑だっただろう。恋していたその相手はとてもやさしい人だった。だから心のどこかで、この人はいつか私の気持ちに応えてくれるのではないかと思っていたのだ。甘かった。脳内がお花畑だった。私たちは大人だから、カラダだけの関係とかキープとかそういうルートもありえたかもしれないが、自分に好意を寄せてくる女をもてあそんだりせず真摯に返事をくれたその人のことは今も尊敬している。それか、私ごときなんか、もてあそぶに値しなかったのかもしれない。とにかく、私が想いを寄せる相手が私にも想いを寄せてくれるというそのことが、どんなに有り難い奇跡なのか、24歳でようやく思い知った。ろくに恋愛を経験しておらず何も知らない私は、とんでもなく愚かだったのだ。

 

現在交際3年目の恋人は、もともとは友人だった。

とても良い友人だった。歳をとってお互い中年になっても会って酒を飲みたいと思っていた。桃色のフィルターのかかっていたバカな恋が少しずつ薄れていく頃、ふと、彼に女がいる想像をしてみたら、とてもモヤモヤした。そして悲しくなった。その夜、もみじという友人と会って吉祥寺の安いファミレスでパスタをすすっていた。その話をすると、もみじはニヤニヤしながら「さゆりちゃん、それはね…、恋だよ」と言った。その言葉を聞いて、ああこれは恋なのかなぁ?と思った。そしたら、じゃあ言わなきゃと思った。好きだと。食べかけのパスタをそのままに、「ちょっと今から電話して言ってくるわ」とファミレスを出た。背中にもみじの「がんばれー」がきこえた。まずLINEで「ちょっと電話したいんだけど今大丈夫?」と送信すると、大丈夫だとすぐに返信がきた。電話をかける。ダメ元で「あの、落ち着いて聞いてほしいんだけど、私の彼氏になってくれん?」と伝えてみた。電話なら、もし断られても顔を見なくて済むし、その後もなるべく顔をあわせないように過ごしていればいい。これから友人に会いに行くのに今横断歩道を渡っているよという電話口の彼は、めちゃめちゃ動揺していた。落ち着いて聞いてほしいと言ったけど、彼は1ミリも落ち着いてなどいなかった。そんな彼の反応に私も動揺した。てっきり冗談で流されてしまうと思っていたからだ。その数時間後、友人と別れた彼から電話がかかってきて、私たちはこれから男女交際をするという契約を交わした。

そんなことがあり3年目。交際開始当時、料理がんばるぞと意気込んでいた私の現在の料理はいっこうに上達せず、食卓に並ぶのはワンパターンなものばかり。何を出してもおいしいと言って食べてくれるけど。そういえば、彼に対してドキドキする気持ちも、燃えあがるような気持ちも、今は正直あんまり感じない。今までいちばん胸がドキドキしたのは初めて手を繋いだときだった。「並んで桜を見ながら歩くのは友達でもできることだけど…だから…お互い手あいてるけど……コイツ今何考えてるんだろう……」しびれを切らした私が彼の左手を掴んだ。お互いびっくりして黙り込んでしまった。こんなにドキドキしたことはそれ以来ない。また特殊な種類のドキドキではあるが。それでも、ふとしたときに、彼の後ろ姿を(ドキドキこそしないけど)愛おしいと思う。犬や猫の画像や映像を見たときにわきあがる気持ちが、ふと彼に対してもわきあがる。犬や猫と違って彼の外見は決してかわいいようなものではない。それでも、ふと手をつないでいたいと思う。どこまでも続く漠然とした安心、やすらぎ、憎まれ口、生活感、めんどくささ、脱ぎっぱなしの靴下、食べかけのまま半年放置されてるミンティア、浴槽の赤い水垢、ごつごつしたソファベッド。剃ってないヒゲのジョリジョリ。カラッポになりかけのシャンプー。溜まって積み上げられてきたジャンプ。不安、安定感と温かさ。今は同棲を目標にお金を貯めている。一緒に暮らすともっとたくさんの楽しいとかムカつくとかおいしいとかウケる〜とかが毎日毎日増えるのかな。楽しくてもドン底でも、おそろいの景色が、おそろいの記憶が、今もまだ増え続けている。そのことが本当にうれしいし、幸せに思う。きっとこれは桃色の恋ではない。見るものすべてにピンクのフィルターがかかってしまうような恋、かつて私に降り注いだ。今はもう違う。生活感だらけで、足がくさくて、甘いセリフなんかひとつもなくて、セックスだってしていない。だけど、これは絶対に。最強の恋だ。

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たぶん