就職したい(第4話)
「もう~働けなくて…生きていける気が…しないんです」
その日、私は友達ふたりに泣きついていた。(ちなみに「しょぼい喫茶店」にて)
「片山、とりあえず手帳取ったらいいじゃん。持ってる?」
「持ってないです。手帳、私も取っていいんですかね」
「取ればいいじゃん」なあちゃんは、その道のプロの人である。
「ウーン……」
「取ったらなんか損することでもあるの?」横からさらぽが口をはさんだ。
「なんか、話聞いてたら、メリットしかないように聞こえるけど」
さらぽ・なあちゃんは友達で、ふたりとも大学の先輩にあたる人だ。さらぽはデザインや絵の仕事をしていて、私のCDのジャケットやチラシをお願いしたこともある。なあちゃんは心理系の仕事をしていて、大学を卒業してから都心のほうの医療機関で働いている。
「そもそも手帳ってそんな簡単に取れるものなんですか」
「うん。うちの患者さんでも持ってる人たくさんいるよ。診断書あれば申請できるよ」
手帳、というのは障害者手帳のことである。
障害者手帳(しょうがいしゃてちょう)とは、障害者として日本にて地方公共団体に認定を受けると発行される、障害を証明するための手帳である。
今の日本での障害者手帳は、身体障害・知的障害・精神障害の3種類がある。その中でも、今の私の健康状態だと精神障害の区分で手帳をとれる可能性が高いらしい。申請は、前述のなあちゃんの言葉のとおり、主治医の診断書があればできる。ちなみに手帳を持っているメリットとして、たとえば東京都だと、都営バスや都営電車の運賃が半額になる、都営住宅の抽選に受かりやすくなる、NHKの受信料の免除、などがある。(※あくまで私調べです)
就職の話に戻る。どうして私は今手帳が必要なのかというと、障害があることを公的に認められれば【障害者として雇用してもらえる】という道が拓けるからだ。いわば【一般雇用】に対しての【障害者雇用】である。ちなみに去年からそのあたりの法律が厳しくなって、企業は障害者枠での採用を増やせば増やすほど国から補助金がもらえるらしかった。だったら、企業側にとっちゃ、補助金をもらいながらも障害者の中から少しでも優秀な人を採用したいはずだ。
「ンンン…でもさ~……」
「片山はいったい何に遠慮してるの」
「なんか、私ごときの奴が手帳取っていいんですかね。私、手帳を取るほど重度じゃないと思ってる。私よりもっとしんどい人がいると思うと…」
「もしかして自分が手帳とることによって他の誰かが働けなくなるとか考えてる?」なあちゃんの言葉は的確だった。さすが、カウンセリングのプロである。
「ないから。片山が働くことで他の誰かがあぶれるとかいうことないから」
「でも…」
「あとはさ~。偏見だよね」さらぽがコーヒーフロートをかき混ぜながらつぶやいた。
ドキッとした。
さらぽの言う通りだった。たぶん、私は障害者という言葉に少なからず偏見を持っていた。
第5話につづく